1.渓流のフライフィッシング
基本的にフライフィッシングは餌釣りと同じ場所でできます。フライフィッシングには時期があって、虫がハッチ(羽化)するときにドライフライで釣るのがいちばんおもしろいでしょう。フライに限らず釣り全般にいえることだけど、釣り方というのは季節によって変わります。
それはなんでかというと、食べ物が変わるからということと、魚の居場所が変わってくるからです。
水の溶存酸素量、つまり水の中に溶けている酸素の量が違ってくるからです。ドヨーンとした場所、よどんだ場所は、夏になって気温が上がってくると酸素の量が減るんで、魚はいなくなります。
そういうときは流れの急なところ、イワナなんかでも、さすがに流れの中にはいないけれど、ジャボジャボと白波、泡が立っているところの岩につくんです。アマゴも泡とか流れの急なところ、朝早くや夕方のフィーディングタイムになってくると、瀬のほうへ出ていきます。
瀬にいるのか、泡の中にいるのか、本流にいるのか、岩陰にいるのか、一日の時間帯でも違うし、当然その酸素の量とか水温とかによっても違ってくるんです。
だから、その魚がどこにいる季節なのかということを知らなきゃいけない。やみくもに釣っていて、もし釣れたら魚がどこにいたかということを考える。最初に1匹岩陰で釣れたとする。夏はシェイドという影のところにイワナはいることがわかる。立ち木の陰とか、岩とかについている。そういうパターンを違う場所でもあてはめていくんです。今日は泡の中にいるな、とかね。
ただ、源流とかの狭いところではそんなこと考えることもなく、一つの流れ、淵など、魚のいるようなところを探すのはむずかしくないんです。釣れる場所以外は、流れが強くて川虫も棲めないところばかりだから、魚のいるポイントは決まってくるんです。
もっとドヨーンとした川でポイントがいくつもあるところなら、この季節だったら、おれが魚だったらどこにいるかな、ということを考えてみる。
水がどんどん入れ替わって肌寒いとき、雪解けで寒いときなどはなるべく水が動かんところがええな―とか、腹へってもうじき産卵せなあかんから虫がいっぱい流れてくるところがええな―とか、人がいつもこの淵で釣りやがるから、ここらへんに隠れているとすこやかに暮らせるなとか、魚の気持ちになって場所をしぼりこんでいくわけです。
それから消去法。1つの淵で3つか4つのパターンがあるから、ここにいないとすると多分ここだろうと、次々と探していく。見つけたら、この季節のこの条件ではこの場所に魚がいるということがわかってくるんです。
そして次のときは迷わずポイントがわかる。これはすべての釣りにいえることなんだけど、そういう読みができるかどうかなんです。読みが当たったときはうれしいですね。
2.渓流のルアーフィッシング
源流域のちょうちん釣りをするようなところではルアーでは釣れません。いま流行りのバス釣りのようなワームを使えば餌釣りと同じように釣れますけれど……。
川幅が少し広くなったところでは、スプーン、スピナー、ミノーを使って岸から対岸の下流に向かって投げます。捕食を利用して小魚に似せたルアーとか、リアクションバイトといって瞬間的に反射食いをさせるような釣り方なので、手返しをどんどん手早くしなければいけない。
これは攻撃的な釣りといえるでしょう。ダウンクロスに流れに沿って投げて、 ルアーを流し少しずつリールを巻きます。サオを上流に向けておいて、小魚が魚に追われてヒューッと逃げていくように見せるんです。魚の目の前で、魚がゴミかな―と思っていると、その小魚を模したルアーがピュピュピュツと逃げるので、魚は「小魚だ!」と反射的に追うわけです。渓流ではスプーンやミノーを使ってこういう釣り方をします。
スプーンやスピナーは、アクションをつけなくてもそのまま水の力でルアーは振動するから、リールを巻くだけでいいんです。ミノーに関してはトゥイッチといって、ちょっとサオにアクションをつけます。2回巻いてピュン、1回巻いてピュンとするとか、「ヒラをうつ」というのですが、いろいろなやり方で魚が逃げまどうときの姿を演出するわけです。
魚というのはヒラをうちはじめたら、パニックになっているか死にそうかのどちらかなんです。魚は腹は白いけれど背中は黒いですね。水鳥でも見分けがつかないんですが、魚が弱ってきたり、あせったときに横を向くと白い腹が見えてしまう。だからヒラをうっている魚は狙われやすいわけです。
水鳥でもバスでも、餌をねらって飛び込んでミスをするとすごく体力を消耗するから、とりやすいとわかっている魚でないと行動を起こさないわけですね。だからそういうアクションを起こしたくなるような、いつでも食べられますよという状態を演出できるかどうかが釣り人の技量になってくるんです。
ものすごく元気な魚を模して、元気いっぱいですなんてやっても、魚は、おれは腹が減っていてそれどこじゃないと無視してしまうわけですね。ルアーというのはそういう釣りです。また、大きな川では、川の向こうに向けてサオを思い切り振れるおもしろみもあります。
フライ、ルアー、餌と分けると、餌釣り師が通ったあとは、ぺんぺん草も生えないといわれるくらい釣れなくなります。フライやルアーではほとんど釣れません。ルアーの釣り師の通ったあともフライは釣れない。フライの釣り師が通った後は、比較的ルアーや餌でも釣れます。
フライは川の中をジャバジャバ歩くから、魚は警戒しているけれども、 いることはいるんです。生餌で釣られた魚は作り物のルアーとかフライには見向きもしないんです。だから3つの釣りを楽しもうと思ったら、まずフライでやって、ルアーでやって、最後に餌釣りという順番にしましょう。
3.源流での釣りのマナー
源流というのは、魚のストック量が限られています。源流域の魚というのは、いったん釣ってしまうと次にそれだけの大きさに成長するまでものすごい時間がかかります。隠し沢なんかなら順番に釣っていけばいいんだけどね。餌釣り師は、みんなが入る谷で釣り始めたら、釣ってしまうんです、全部で50匹いたら50匹釣ってしまう。
いま魚がいなくなったというわけですね。
そしてそのままだと入漁料がとれないからといって、漁業組合が放流したのがニジマスです。
いちばん安くて、でかくて、釣り人をとりあえず満足させられるのがニジマスなんです。それで全部の河川が
管理釣り場と化してしまったわけです。だから
マナーとしては5匹食べたければ、5匹だけ釣って帰ればいいんです。
みんなが自分の首をしめていることに気がついて、必要以上釣らなければいいんです。釣れたときの感動を大切に数で競おうとするからついつい釣ってしまう。釣れたときの感動、特に最初の1匹が釣れたときというのはものすごく感動がでかいんです。その感動を大切にしようやないかと思います。
2匹目は最初の感動が半分になるはずなんですね。5匹だったら5分の1になる。このまま釣っていったら、釣ったときの感動というのがゼロになってしまう。このへんでやめとこうかとサオをしまう勇気をみんなに持ってほしい。
量ではなくて魚との出会いを大事にする釣りをしよう。食欲で釣っている人は、食欲を満足させたらやめる。腹いっぱいになっても釣って、腐らせてまで魚を持って帰ってどうするんだ。
そこまでする必要はないでしょう。
大きさでいえば、小さい魚はダメージが少ない方法でリリースしてやるとか。針が1回や2回刺さったぐらいでは死なないのですわ、魚は。自然派の人は、キャッチ&リリースしても魚はみんな死んでいるというけれど、それはリリースの仕方が下手っぴなんですね。
手で握ったりすると、体温差で魚はすごいヤケドをしてしまう。雑菌はつくし、体を守っているぬるぬるもとれてしまうし……。
魚に触らなくても、糸だけを持って針に糸をかけて吊してやれば簡単にはずれるし、魚を手に持つときは水の中でやるようにして、針をはずしてやればいい。とにかくできるだけ魚に触らないということが第一です。小さい魚をリリースするというのはマナーです。
マナーとして当然のことだけど、ゴミは捨てないこと。プロはぜったいゴミを捨てません。そこが釣れるというのが他人にばれるからね。山奥でも形跡が残らないようにたき火のあともきれいにしておく。足跡も消してしまいます。
釣り道具が落ちているというのは、すごいみっともないことです。餌箱とかも。気持ちはわかるんですよ、糸がもつれたやつを投げつけてやりたくなるのは。ほんとに頭にきますから。
そういうときはポケットに入れればいいんです。僕のポケットにはもつれた糸がたくさん入ってます。とりあえずなんでもポケットに入れる。食べかけのパンでもなんでも。後から拾おうとか、捨てないで手に持っていようとしたら釣りができませんから。ポケットに入れる癖をつけたほうがいいですね。
それから渓流釣りのルールとしては、先行者がいたら、その人の前に入っちゃいけないんです。入るとしたら、絶対に気づかれないように思いっきり大きくまいて入らないといけない。
わたしはあなたよりも先に来て釣ってるんですよ、なんてしらばっくれた顔をしてなくちゃいけないんです。ちょいとごめんなさいね、なんて追い抜いていったら絶対いけない。大きな川は別ですけれど、渓流では、まくようにして前に出て、1日前から釣ってるような顔をしてなくちゃいけないんです。
近頃はマナーが悪くなって、あいさつもなく追い抜いて、僕が釣っているのにその前で釣り始めるやつがいる。石をぶつけてやりたくなる。先に釣っている人がいたら、その人の権利なんです、上流まで。
4.釣った魚の運び方
釣った魚は「ビク」という入れ物に入れて運びます。いつかイワナのでかいのを釣ったんですけど、それを腰の入れ物にいれて釣り歩いているうちに落としたことがあるんです。それが悔しくて。ビクはきちんとふきの葉などでフタをしなくちゃいけません。
映画なんかでは肩にかけている袋を使っているんですが、あれは中にネルのような布がぬらしてあって、そうすると気化熱で魚が温まらなくて、クーラーバッグのようになるんです。ぬれた布袋に魚を入れるといいんです。
そういうものがないときは木の枝を折って、それに魚を刺して歩きます。えらから刺すようにして、枝は長いほうから魚を通すこと。短い枝はストッパーとして使います。
木のない場合は草を利用するといいでしょう。葦などの草をたばねて結んで、結び目に魚を持ち歩かないでそのまま上流に行きたいときは、岩をのせて水の中に沈めておくのが天然のクーラーで一番いい。ただし上から見えないようにしておかないと、鳥に取られたり、カワウソなどの動物に取られてしまいます。岩で覆ってわからないようにしておきましょう。
この場合、気をつけなくてはいけないのは、帰りに取っていこうとしたときに自分でもどこに置いたかわからなくなること。そのために石を近くの岩の上にポンと置いておく。目印です。
川を上っていくときと帰ってくるときというのは時間感覚がぜんぜん違うので、こんなに上ってきたかなと思うくらい遠かったり、逆に、あれ、もうこんなところだと思ったりします。ゆっくりと歩くのと飽きて早く移動するのとでは、感覚がばらばらだから、距離感があてにならなくなるんです。だから、普通に歩くときもときどき目印の石を置いておくとかするといいでしょう。
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